更新日:2026年8月16日
IT・SaaS企業のBtoBマーケティングとは、継続課金型のソフトウェアやサービスを提供する企業が、見込み客を獲得し、契約を維持・拡大していく活動のことです。
他の業種と最も違うのは「売って終わりではない」点です。受注は開始地点であり、使われなければ解約されます。
そのため獲得だけでなく、定着と拡大まで含めて設計する必要があります。
4段階の設計
| 段階 | 目的 | 主な指標 |
|---|---|---|
| 獲得 | 見込み客を集める | リード数、獲得単価 |
| 商談 | 契約につなげる | 商談化率、受注率 |
| 定着 | 使われる状態にする | 稼働率、利用頻度 |
| 拡大 | 契約を広げる | アップセル率、売上維持率 |
獲得だけを強化しても、定着が弱ければ売上は積み上がりません。穴の空いたバケツに水を注ぐ状態になります。
獲得:流入の作り方
| 経路 | 特徴 | 検討度 |
|---|---|---|
| 検索(用語・課題) | 時間はかかるが継続的 | 中 |
| 検索(比較・選び方) | 数は少ないが受注に近い | 高 |
| 比較サイト・レビューサイト | 検討中の層が見る | 高 |
| リスティング広告 | 即効性がある | 高 |
| ウェビナー | 育成とセット | 中 |
| 紹介・既存顧客 | 受注率と継続率が高い | 最高 |
| 無料プラン・トライアル | 使ってから判断される | — |
比較サイトへの掲載は検討度の高い層に届きます。自社サイトのSEOと並行して押さえてください。
価格をどう出すか
| 出し方 | 利点 | 欠点 |
|---|---|---|
| 料金表を全公開 | 比較検討で候補に残る | 競合に見られる |
| 価格帯のみ提示 | 概算が伝わる | 詳細は問い合わせが必要 |
| 非公開(要問い合わせ) | 個別に提案できる | 検討段階で外される |
BtoB SaaSでは、少なくとも価格帯は出したほうが有利です。担当者は社内で概算を出せないと稟議を始められず、金額が分からない時点で候補から外します。
無料トライアルの設計
| 論点 | 考え方 |
|---|---|
| 期間 | 14〜30日。短すぎると評価できない |
| クレジットカード登録 | 求めると申込は減るが、質は上がる |
| 機能の制限 | 評価に必要な機能は開放する |
| 初期設定 | 設定が終わらないと評価されない。支援を入れる |
| 期間中のフォロー | 放置すると使われないまま終わる |
| 終了前の連絡 | 継続の意思確認 |
トライアルの失敗要因の大半は「設定が終わらないこと」です。使い始める前に期間が終われば、評価すらされません。
定着:最初の3か月
| 時期 | 課題 | 打ち手 |
|---|---|---|
| 0〜2週 | 設定が終わらない | 初期設定の支援、テンプレート |
| 2週〜1か月 | 使い方が分からない | 操作説明、活用例の提示 |
| 1〜3か月 | 成果が見えない | 数値レポート、導入前との比較 |
| 3か月〜 | 使う人が固定化 | 他部署への展開支援 |
解約の多くは最初の3か月で決まります。この期間に「使える状態」まで持っていけるかが継続率を左右します。
見る指標
| 指標 | 計算 | 意味 |
|---|---|---|
| MRR | 月次の経常収益 | 継続的な売上 |
| 解約率 | 解約数 ÷ 期首契約数 | 抜けの大きさ |
| NRR(売上維持率) | (期首+増額−減額−解約)÷ 期首 | 既存だけで伸びているか |
| LTV | 平均単価 × 平均継続月数 | 1社あたりの価値 |
| CAC | 獲得費用 ÷ 獲得社数 | 1社あたりの獲得費用 |
| LTV / CAC | — | 3倍が健全性の一般的な目安 |
| 稼働率 | 利用のある社数 ÷ 契約社数 | 定着の度合い |
稼働率は解約率より早く動きます。使われなくなった顧客は、数か月後に解約します。
つまずきやすい箇所
| 状態 | 原因 | 対処 |
|---|---|---|
| リードは増えるが受注しない | 検討度の低い層を集めている | 比較・料金の記事を厚くする |
| 受注するが解約が多い | 期待値を上げすぎている | 受注時の合意内容を明確に |
| トライアルから有料に進まない | 設定が終わっていない | 初期設定を支援する |
| 既存顧客が伸びない | 使われている機能が少ない | 活用支援、他部署への展開 |
| 価格で負ける | 価値を金額で示せていない | 導入前後の数値比較を用意 |
「期待値を上げすぎている」は営業段階の問題です。受注のために誇張すると、解約という形で返ってきます。
まとめ
- 設計は獲得・商談・定着・拡大の4段階
- 獲得だけ強化しても定着が弱ければ積み上がらない
- 価格帯は出したほうが有利。稟議を始められる
- トライアルの失敗要因は設定が終わらないこと
- 解約の多くは最初の3か月で決まる
- 稼働率は解約率より早く動く
- LTV / CAC は3倍が健全性の一般的な目安
よくある質問
料金は公開すべきですか?
少なくとも価格帯は出したほうが有利です。BtoBでは担当者が社内で概算を出せないと稟議を始められず、金額が分からない時点で候補から外されます。個別見積が前提の商材でも、「月額◯万円〜、規模により変動」という形であれば示せます。
無料トライアルは必要ですか?
商材によります。操作性が判断材料になる商材では有効ですが、初期設定が複雑な商材では、設定が終わらないまま期間が過ぎて評価されずに終わります。トライアルを設ける場合は、初期設定の支援と期間中のフォローをセットで用意してください。それができない場合は、デモや個別説明のほうが確実です。
解約を減らすには何から着手すべきですか?
導入から3か月間の立ち上げ支援です。解約の多くはこの期間に定着しなかったことに起因します。初期設定の代行、操作説明、活用例の提示によって「使える状態」まで持っていくことが最も効きます。あわせて、稼働率(ログインや主要機能の利用)を監視し、低下した顧客に早めに接触してください。
LTVとCACの目安はありますか?
LTVがCACの3倍以上が健全性の一般的な目安として使われます。これを下回る場合、獲得に費用をかけすぎているか、継続期間が短すぎるかのどちらかです。ただし事業の成長段階によっては、意図的にCACを高くする判断もあり得ます。数値そのものより、推移がどちらに向かっているかを見てください。