更新日:2026年8月16日
稟議とは、担当者が起案した内容について、関係部署と決裁者の承認を順に得ていく社内手続きのことです。
BtoBで商談が止まる理由の多くは、担当者が乗り気でないことではなく、社内を通せないことです。
売り手にできるのは決裁者に直接会うことではなく、担当者が社内で説明できる材料を渡すことです。
稟議が止まる原因
| 原因 | 担当者が答えられないこと |
|---|---|
| 効果を数字で説明できない | 「いくら得するのか」 |
| 他社と比較していない | 「なぜこの会社なのか」 |
| やめるときの条件が不明 | 「合わなかったらどうするのか」 |
| 既存業務への影響が読めない | 「誰がどれだけ手間をかけるのか」 |
| セキュリティ要件を満たすか不明 | 情報システム部門の質問 |
| 今やる理由がない | 「来期でもよいのでは」 |
この6つに答えられる材料を渡せば、稟議は通りやすくなります。逆に、どれか1つでも空欄だと差し戻されます。
渡すべき資料の一式
| 資料 | 用途 | 枚数 |
|---|---|---|
| 1枚サマリ | 決裁者が最初に読む | 1 |
| 費用対効果の試算 | 金額の根拠 | 1〜2 |
| 比較表 | 他社と比べた理由 | 1 |
| 導入スケジュール | いつから使えるか | 1 |
| 体制と役割分担 | 誰が何をするか | 1 |
| 契約条件 | 期間、解約、費用 | 1 |
| セキュリティチェックシート | 情報システム部門向け | 別途 |
| 導入事例 | 類似企業の実績 | 1〜2 |
最初の1枚が最も重要です。決裁者は全部を読みません。1枚で「何を、いくらで、なぜ今」が分かる形にしてください。
1枚サマリに書くこと
- 解決したい課題:現状の数字(工数、費用、機会損失)
- 導入するもの:何を、どの範囲で
- 費用:初期、月額、年間合計
- 効果:金額または時間で
- 回収期間:何か月で費用を上回るか
- リスクと対策:合わなかった場合の扱い
- 今やる理由:先送りした場合の損失
「今やる理由」が抜けている稟議は先送りされます。来期でもよいなら、来期に回されます。
費用対効果の示し方
| 項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 現状のコスト | リスト作成に月20時間 × 時給3,000円 = 月6万円 |
| 削減できる分 | 月15時間削減 = 月4.5万円 |
| 増える売上 | 商談が月2件増 × 受注率25% × 単価100万円 = 月50万円 |
| 導入費用 | 初期0円、月額5万円 |
| 月次の差引 | +49.5万円 |
| 回収期間 | 1か月未満 |
効果は控えめに見積もってください。過大な試算は決裁者に見抜かれ、資料全体の信頼を失います。前提条件を明記し、根拠を示せる数字だけを使ってください。
比較表の作り方
| 原則 | 理由 |
|---|---|
| 顧客が実際に比べる項目で作る | 自社が勝つ項目だけ並べても使えない |
| 負けている項目も入れる | 都合の良い表は信用されない |
| 「〜」ではなく具体的な数値を書く | 比較にならない |
| 出典と時点を書く | 情報が古いと指摘される |
| 3〜5社に絞る | 多すぎると読まれない |
負けている項目を入れたうえで「その項目は自社の要件では重要でない」と説明できる形にすると、担当者は社内で強く主張できます。
リスクへの答え方
| 懸念 | 用意する答え |
|---|---|
| 合わなかったら | 契約期間、解約条件、最低利用期間 |
| 使いこなせるか | 導入支援の内容、サポート体制 |
| 担当者が辞めたら | 引き継ぎのしやすさ、属人化しない設計 |
| 情報漏えい | 認証、通信、保管、委託先の管理 |
| 既存システムに影響しないか | 連携方法、影響範囲 |
| 費用が想定より膨らまないか | 追加費用が発生する条件 |
「追加費用が発生する条件」を事前に明示してください。後から想定外の費用が出ると、担当者が社内で立場を失います。
売り手としての動き方
| 場面 | やること |
|---|---|
| 初回商談 | 社内の決定手順を聞く(誰の承認が要るか) |
| 提案時 | 担当者向けと決裁者向けの資料を分ける |
| 稟議前 | 「社内で聞かれそうなことはありますか」と確認 |
| 情報システム部門の審査 | チェックシートを先回りして渡す |
| 止まったとき | 「どのあたりで止まっていますか」と直接聞く |
| 決裁者に会いたいとき | 担当者を飛ばさず、同席を依頼する |
担当者を飛ばして決裁者に接触しないでください。その担当者は以後、協力してくれなくなります。
まとめ
- 商談が止まる理由の多くは担当者が社内を通せないこと
- 売り手にできるのは説明できる材料を渡すこと
- 1枚サマリが最重要。決裁者は全部を読まない
- 「今やる理由」がないと先送りされる
- 効果の試算は控えめに、前提を明記して
- 比較表には負けている項目も入れる
- 担当者を飛ばして決裁者に接触しない
よくある質問
決裁者に直接会えない場合はどうすればよいですか?
担当者が社内で説明できる材料を渡すことに注力してください。BtoBでは決裁者に会えないまま受注に至るケースが多数あります。1枚サマリ、費用対効果の試算、比較表、契約条件の4点が揃っていれば、担当者は社内で説明できます。担当者を飛ばして決裁者に接触するのは、関係を壊すため避けてください。
費用対効果はどう試算すればよいですか?
現状のコストを数字にすることから始めます。「リスト作成に月20時間」のように時間で捉え、人件費を掛けて金額にします。そのうえで削減できる分と、増える売上を分けて示してください。重要なのは前提条件を明記することで、「商談化率が現状の水準で推移した場合」といった条件を書いておくと、数字の信頼性が上がります。
稟議が止まってしまった場合はどうしますか?
「どのあたりで止まっていますか」と直接聞いてください。予算が付かない、決裁者が動かない、情報システム部門の審査で止まっている、優先度が下がった、では打つ手がまったく違います。遠回しな追客メールを続けるより、状況を聞くほうが早く、担当者にとっても助かります。
比較表に自社が負けている項目を入れてよいのですか?
入れたほうが有利になることが多くあります。都合の良い項目だけを並べた表は決裁者に見抜かれ、資料全体の信頼を失います。負けている項目を明示したうえで「この要件は御社の用途では優先度が低い」と説明できる形にすると、担当者は社内で自信を持って主張できます。